事前確定届け出給与とはその④ 年金復活スキームとは?

2024.3.20

 
過去3回に渡り、事前確定届け出給与と2024年度から在職老齢年金の支給停止調整額の変更(47万―>50万)について説明しました。
 
今までの説明で、事前確定届け出給与という名の「役員賞与」は、メリットも大きい代わりに縛りも大きい制度ということはご理解いただけたと思います。
 
業績の変動が激しい企業、成長途上の企業の役員は利用しにくいですね。また、そもそも役員報酬が低い場合は、メリットも少ないです。
 
では、どのような企業の役員に適しているのでしょう?
・業績がある程度安定している
・役員報酬が比較的高い
・月々の報酬を低くしても計画的に生活できる(個人的に子育て世代には難しいかも)
 
したがって、業績が安定している企業の高齢の役員に最も適していると言えます。さらに、在職老齢年金の支給停止を受けている方にこそふさわしいのです。
 
具体的に2024年度東京都の保険料額表を元に社会保険料を見ていきましょう。
前提
現在、65歳、役員報酬100万円/月、年間1,200万円
事前確定届け出給与制度を利用し、役員報酬10万円/月、年間120万円、役員賞与1,080万円、合計で1,200万円
健康保険料9.98%(東京都)、介護保険料1.60%(全国一律)厚生年金保険料18.3%(全国一律)
 
現在の本人負担額
(健康保険+介護保険)の標準報酬月額980,000
(健康保険+介護保険)の本人負担額56,742/月、年間680,904
厚生年金の標準報酬月額は、上限の650,000
厚生年金の本人負担額59,475/月、年間713,700
合計680,904円+713,700円=1,394,604
 
事前確定届け出給与利用の月額部分の本人負担額
(健康保険+介護保険)の標準報酬月額98,000
(健康保険+介護保険)の本人負担額5,674/月、年間68,088
厚生年金の標準報酬月額は、98,000円(健康保険と同じ)
厚生年金の本人負担額8,052/月、年間96,624
役員賞与部分の本人負担額
(健康保険+介護保険)の上限額年間573万円、573万円×11.58%÷2=331,767
厚生年金の上限1150万円、150万円×18.3%÷2=137,250
合計68,088円+96,624円+331,767円+137,250円=633,729
 
合計の負担軽減額1,394,604円-633,729円=760,875円となります。大きいですね。しかも、会社が同額負担しているので、経営者としては、633,729円の倍の1,267,458円節約できたことになります。
 
続いて、在職老齢年金の支給停止の金額の計算です。
 
基本月額:加給年金額を除いた老齢厚生(退職共済)年金(報酬比例部分)の月額
総報酬月額相当額:
(その月の標準報酬月額)+(その月以前1年間の標準賞与額の合計)÷12
 
在職老齢年金による調整後の年金支給月額は、以下の計算式で求められます。
基本月額-(基本月額+総報酬月額相当額-50万円)÷2(2024年度より)
 
例えば、基本月額(老齢厚生年金の報酬比例部分)が10万円であれば、総報酬月額相当額が40万円(ボーナスが無ければ月額報酬の額)までなら、支給停止になりません。一方、総報酬月額相当額が60万円以上なら年金の支給は全額停止となります。
 
現在は、60万円を超えているので、全額支給停止ですが、事前確定届け出給与を利用すると、以下の計算となります。
 
総報酬月額相当額:98,000円+(150万円÷12)=223,000円<40万円なので、老齢厚生年金を受給しても、年金が停止されることは無く、満額支払われます。
 
本来は、全額支給停止となるところが、全額もらえるようになるので「年金復活スキーム」と言われています。
 
この例では、年金が120万円もらえて、社会保険料が会社分も含めて1,267,458円節約できるのですから、話題になるはずですよね。
*将来受け取る年金の減額や税金のことは考慮していません。詳しくは、社会保険労務士や税理士にご相談ください。
 
今回は、少し長くなりましたが、条件に合う経営者の方がいらっしゃれば、一度、ご案内しては如何でしょうか?私の実感では、条件に合う経営者ほど利用せず、あまり条件に合わないのに、とにかく利用しようとする経営者に分かれるような気がします。